最新情報調査研究報告

平成19年度調査研究タイトル「中小事業所の経営者におけるメンタルヘルスの意識調査」


主任代表者 群馬産業保健推進センター所長       鈴木 庄亮

共同研究者 群馬産業保健推進センター相談員     椎原 康史

共同研究者 ()アイクルー代表取締役社長        石埜   

共同研究者 群馬産業保健推進センター相談員     狩野 正之

共同研究者 群馬産業保健推進センター特別相談員 藤田 晴康

共同研究者 群馬産業保健推進センター特別相談員 松岡 治子

共同研究者 群馬大学医学部保健学科 助教        山田 淳子

共同研究者 群馬大学医学部保健学科 助教        小笠原映子

 


1 はじめに

自死を選ぶ者の少なからぬ割合を、経営基盤が弱く、厳しい経済環境下で、ストレスに曝されている中小企業の経営者が占めており、彼らのメンタルヘルス対策は自殺予防対策の上でも重要である。また、事業所でメンタルヘルス対策を講じる場合、組織のトップである経営者の意識・理解は影響が大きい1)。

しかしながら、会社の規模が小さくなるとメンタルヘルス対策への取り組み率は低下し2)、経営者自身もメンタルヘルスに無関心で、自分から相談に向かうことに消極的といわれる3)。このように経営者のメンタルヘルスに関する意識は重要であるが、多忙な経営者を対象としたメンタルヘルスの意識調査はこれまでほとんど行われていない。

本報告は、平成16~20年にかけて、中小企業の経営者が参加する群馬県桐生市のNPOが中心となり、県内の中小事業所経営者を対象として行った1) 聞き取り調査、2) 質問紙調査1 、3) 質問紙調査2の3段階からなる一連の調査を集約したものである。

2 方

1) 聞き取り調査:群馬県東部地区(桐生、伊勢崎、太田市等)の商工会議所等の紹介を受け、50人未満規模の中小企業を中心に133社を選定した。電話で調査の趣旨を説明し、同意の得られた63事業所に調査員が訪問し、経営者から直接にメンタルヘルスに関する意見・意識を聴取した。

2) 質問紙調査1:聞き取り調査を基に、経営者が抱える心の健康、メンタルヘルスケアに関する意識における問題点を抽出し、40項目からなる質問紙を作成した。調査は郵送法あるいは集団調査法により実施し、535社から有効回答を得た。

3) 質問紙調査2:質問項目には経営者のメンタルヘルスの他に事業所としての従業員の健康管理・メンタルヘルス対策に関する項目を加え、二回目の質問紙調査を行った。1,040部を配布し、有効回答は500部であった。

3 結果と考察

経営者の自身のメンタルヘルスについて

質問紙調査2で、『最近ストレスを感じたことのある者』、は 77%、『経営上の問題にストレスを感じた者』は69.5 %であった。『ストレス解消法がある者』も71.3 %と多く、そのメニューも多彩であった。また『自分のメンタルヘルスが経営に影響する(70.7%)』、『自分のメンタルヘルスを大切にすることは経営的にも有益である(86.9%)』と考える者も多く、経営者自身のメンタルヘルスの重要さは理解されているように見えた。しかし、『メンタルヘルスは自分で管理すべき問題である』と71.4 %が考え、メンタルヘルス対策に自らを含める発想は乏しかった。

質問紙調査1で、『家族は一番の理解者である(59.5 %)』、『家族といるとリラックスできる(61.0 %)』としており、経営者にとって、家族は遠い存在ではなかった。また『何でも話せる友人がいる(61.5%)』、『友人と過ごす時間は大切だ(83.5 %)』と、友人のサポートも少なくなく、経営者達は、周囲の個人的な人間関係の面では比較的健全な印象があった。

一方、従業員との関係では、『従業員には自分の弱気な面は見せられない(45.5 %)』、『経営者は結局、孤独である(47.0 %)』となり、会社での人間関係はやや希薄な印象であった。

経営者のメンタルヘルス対策への意識について

質問紙調査2で、『メンタル面が原因で辞めた従業員がいる(24.0 %)』、『メンタル面が原因で辞めさせた従業員がいる(14.9 %)』と少なからぬ頻度で事例に遭遇していた。また『メンタル面でひ弱な従業員が増えている(53.7 %)』、『メンタル面で悩んでいる従業員がいる(48.3 %)』と潜在的な問題も自覚していた。しかし、『従業員のメンタルな問題は会社には責任がある』と考える者は74.3 %、従業員のメンタルヘルス対策は『仕事意欲の向上につながる(81.5 %)』、『生産性向上につながる(80.2 %)』など、従業員のメンタルヘルス対策の必要性は、概論的には肯定的に考えていた。しかし具体的には『従業員のメンタルな状態は把握していない』が57.0 %であり、『専門医、カウンセラーとの契約、メンタルヘルス研修、うつ病のチェック』など、事業所としてのメンタルヘルス対策を実施しているのは10 %に満たない状態であった。

このように中小企業経営者のメンタルヘルス対策への意識は貧しくはないが、整備の余裕がないことが示唆された。

中小企業でのメンタルヘルス対策の費用について

質問紙調査2で、従業員一人あたりの福利厚生費は平均8万円弱/年と答え、そのうち健康管理費は36,000円と答えた。さらにメンタルヘルス対策へ支出できると考える金額は、平均約5,000円であった。この場合、想定されるサービスは、e-learningなどネットの利用も含めたメンタルヘルス研修の共同実施、web上でのセルフチェック(セルフケア、うつ病のチェックなど)の提供、実際の事例、経営者を含む、従業員および家族の受診相談などに、実務的に対応可能な、精神科・心療内科専門医のコンサルティング・サービスである。

中小企業では、対応困難なメンタルヘルス事例に遭遇する絶対的な頻度は多くないが、一旦問題が発生すると、専門医(精神科医)による迅速な判断、緊急の対応が必要となる。しかし専門医によるサービスは、既存のEAPサービスでは含まれないことが多い。

従来、専門医のコンサルティングを含むメンタルヘルス対策は、経済的にも余裕のある恵まれた大企業だけが取り組むものと考えられてきた。しかし中小企業にとって、このようなメンタルヘルス対策が、コスト的に本当に非現実的なのかどうかは明確ではない。職域のメンタルヘルスに関心のある精神科医は少なくないが、サービス対象がこれまで大企業に限られてきたのには、中小企業の集合体に対してサービスを提供する仕組み、精神科医と中小企業の集合体のニーズを結びつける仕組みが存在しないことが大きい。この結果は中小企業の経営者が妥当な経費負担で、メンタルヘルス対策を整備する際、例えば共同契約の形態を模索する際などの基礎資料になると思われる。

本調査の研究分担者には、自らが経営者であり、中小企業の経営者の集まりであるNPOのリーダーが含まれている。経営者ならではのネットワークを通じて、多忙で、接触すら難しい経営者達に面接あるいは質問紙への記入を依頼し、従来データが乏しい領域の貴重な調査を行うことが出来た。

また、調査項目には、経営者としての経験が生かされた独特の内容が設定されている。

中小企業は大半の労働人口を擁するも拘わらず、産業精神保健施策が及びにくい領域である。本調査の結果は、近年、拡充が強く望まれている中小事業所の産業保健・メンタルヘルス対策を具体化し、推進するための貴重な資料となろう。

 参考文献

)山村陽一:第12回日本産業精神保健学会 招待講演 職場のメンタルヘルスと経営者の姿勢、産業精神保健、13(4)207-2102005

2) 日本産業精神保健学会・編:職場におけるメンタルヘルス対策、精神障害の労災判定「判断指針」対応、東京、労働調査会、225、2000.

3) 堺地域産業保健センター:『中小零細企業へのメンタルヘルスケアの取り組みと方向性』、産業保健21、46(10)、10-11、2006.

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